2025年05月08日
(転載)日本予防医学協会
健康づくりWEBかわら版 2025年5月号より
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「煙が出ないから安心」は本当?
~加熱式・電子たばこの現状と健康影響を考える~
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
5月31日は世界禁煙デーです。
この日は、たばこがもたらす健康影響について改めて見つめ直し
禁煙の大切さを広く伝える国際的な記念日。最近では「煙の出な
いたばこ」として登場した新型たばこ(加熱式・電子)が普及し
ていますが、これらの製品は本当に「安全」と言えるのでしょう
か。そこで今回は『新型たばこ(加熱式・電子)』に関するお話
しです。
———————————————————-
★ 新型たばこの種類と違い ★
———————————————————-
●加熱式たばこ
たばこ葉を加熱し、発生するエアロゾル(蒸気)を吸引する製品
です。火を使わず煙が出ないことから「害が少ない」と考えられ
がちですが、ニコチンを含み、依存性は紙巻たばこと同様に強い
とされています。
●電子たばこ
液体リキッドを加熱して蒸気を発生される製品でたばこ葉を使用
しない点が特徴です。国内では医薬品医療機器等法(薬機法)に
よりニコチンを含む製品の販売は原則禁止されていますが、個人
輸入品にはニコチン入りも多く存在します。
これらの新型たばこは、過去に紙巻たばこを利用していた人には
「軽く」感じられることも多いようで、本数が増えたり、無自覚
に深く吸い込むなどの代償性喫煙行動を伴うことも少なくありま
せん。
———————————————————-
★ 増加する新型たばこの使用者 ★
———————————————————-
「令和5年 国民健康・栄養調査」によると、現在習慣的に喫煙
している人の割合は15.7%で、その内訳は男性25.6%、女性6.9
%です。
そのうち、喫煙者が使用しているたばこの種類をみると、
・紙巻たばこを吸っている人:男性69.7%、女性63.2%
・加熱式たばこを吸っている人:男性38.5%、女性42.3%
加熱式たばこの日本国内での歴史は10年程度。この数年のうちに
加熱式たばこの利用者が急増したことは容易に想像できます。
特に若年層や働き世代を中心に広まってきています。
こうした動きから、喫煙のスタイルが「紙巻たばこ中心」から
「新型たばこ中心」へと変化しているといえるでしょう。
———————————————————-
★ なぜ切り替える?使用者の意識傾向 ★
———————————————————-
保健指導等を通して喫煙状況についてヒアリングを行うと、新型
たばこを選ぶ理由として、次のような傾向がありました。
・「煙やにおいが少ない」
・「周囲への影響が小さい」
・「紙巻たばこよりも健康被害が少ない」
実際に新型たばこの広告等を確認するとクリーンなイメージの表
現がみられますが、同時に「周りの人の健康への悪影響が否定で
きません。」と紙巻たばこ同様に免責表現が記されていることも
事実です。
———————————————————-
★ 「紙巻よりマシ」は誤解のもと? ★
———————————————————-
新型たばこは「紙巻たばこよりマシ」と思われがちですが、実際
には『害の種類や量が変わっただけ』というのが専門家の共通し
た見解です。
WHO(世界保健機関)も、加熱式たばこについて「安全性は確立
しておらず、規制が必要」と警告しており、長期的な安全性はま
だ科学的に十分証明されていません。
なお、多くの化学物質を含む新型たばこでは紙巻たばこにはない
リスクが潜むと考えられています。
加熱式たばこでは、「グリシドール・ピリジン・ジメチルなど」
の化学物質の発生量が紙巻たばこより増加しているという報告が
あります。これらの物質は呼吸器や循環器への影響を引き起こす
リスクがあり、長期的影響についても不明な点が多いのが実情で
す。
電子たばこでは、リキッドの成分(プロピレングリコール、グリ
セリン、香料など)は加熱によってホルムアルデヒドなどの有害
物質に変化する可能性があり、肺機能への悪影響やアレルギー反
応の誘発が報告されています。
米国では2019年に、電子たばこ使用に関連した肺障害(EVALI)
が多数報告され、大きな問題となりました。
———————————————————-
★ 世界禁煙デーをきっかけに”本当の禁煙”へ ★
———————————————————-
世界禁煙デーは、「なぜ吸うのか、そしてどうやめるか」を考え
る日。新型たばこを含むすべてのたばこ製品は、ニコチン依存や
健康影響の観点から、禁煙対象であることに変わりありません。
厚生労働省も、禁煙外来や禁煙補助薬の活用を推奨しており、専
門家のサポートによって禁煙成功率は2~3倍にあがるとされて
います。
———————————————————-
★ 最後に・・・ ★
———————————————————-
禁煙は「がまん」ではなく「選択」。
今はさまざまな制度が整っており、自分にあった方法で”卒煙”を
目指せます。
まずは知ることから、そして自分や大切な人たちのために、一歩
を踏み出してみませんか?
※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。
・厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
・加熱式タバコ製品に関する包括的報告書
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/information/HTPtabaccoCOP9wayaku.pdf
・WHO「Heated tobacco products」一般社団法人 日本禁煙学会理
事 松崎道幸・訳
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/information/WHO2019%20HTP.pdf
以上